そうしょっちゅうは、ハードカバーの本が買えないのですが、かといって文庫本の新刊はミステリやら時代物などエンターテイメントばっかりで、純文学なぞ余り文庫化されないこの頃ですね。でも矢作センセの「ららら科学の子」は買ってないし、池澤夏樹の静かな大地」は未読だしなあ。そんなこんなで2004年になってから読んだ本。
●「きれぎれ」(町田 康 著 文春文庫)
町田康(こう)、すなわちパンクバンドINU時代は歌手町田町蔵であります。
このひと、一見しっちゃかめっちゃかな文体で、一読して好き嫌いが別れてしまうと思いますが、実は古典落語も読み込んだ相当のテクニシャンです。その証拠に毒舌でならす立川談志師匠が絶賛していました。
2004年になって芥川賞受賞作「きれぎれ」が文庫化されたのでさっそく拝見。解説は何故か、水と油のような池澤夏樹さん。まあ好きな作家二人なんで、得した気分でいいですけど。池澤さんも開口一番、「町田康は粋である」と喝破しています。うんうん、やっぱりそうなんだ。
さて読み進めると、これ、シュールとスラップスティックが同居して、筒井康隆の「熊の木本線」なんかの方法論が町田節で展開している、みたいな錯覚に捕らわれました。他の文庫本で読んだ「くっすん大黒」「屈辱ポンチ」はあくまでリアル(に読める)な描写にもとづいて、ひたすら情けなくもトラジコメディックな、だらだらとした話が延々続いて、唐突にフェイドアウトしちゃうのですが、「きれぎれ」に収録された「人生の壁」はシュールに流れました。ま、どっちも徹頭徹尾情けない・やるせない話には変わりないので、十分楽しめましたが、町田康にあっては、やや言葉遊びの羅列になるシュール方面より、一抹のおかしみを常に湛えた「くっすん大黒」のような方が良いと感じます。
通常の社会生活を送れない落伍者ということでは、「ねじ式」のつげ義春が大先輩ですが、つげさんの、例えば「ゲンセンカン主人」など徹頭徹尾暗くて出口がないので私には耐え難く、「ねじ式」のシュールさや、「峠の茶屋」など少しく作りこんだヒューモアがある話のほうが好きなんで、町田康とは逆ですね。
まあとにかく、発刊の少ない純文学作家のなかでは21世紀のお気に入りの一人です。(2004.04.14)
●「カイマナヒラの家」(池澤夏樹 著 写真 柴田満之 集英社文庫)
「ハワイイ」の達人・池澤夏樹のひさびさの小説。初出は2001年とのこと。この人の持ち味だった、理科系作家らしい、きりっとした、というか、固い芯のようなものがとれて、海とサーフィンといい大人(でも、やはりちょっぴり悲しい」の思いでを詰めたようなお話。なんだか村上春樹とか、ポール・オースターに近づいちゃったような(^o^) 映画「SMOKE」(ハヴェイ・カイテルとか出るやつ)の舞台を、「ハワイイ」に移したみたい。でもとにかく、心を洗われるとってもいい本です。写真もよくグラフィック雑誌でありそうなカットなのに、深みが違う。池澤作品の中で突出したものではないけれど、長く沖縄に住まいを移してから、こころのとんがりも丸くなったのかなあ?(2004年3月)
PS:全然関係ないですが、この本を読んだ後、LPしかなかったフィル・マンザニーラの「ダイアモンド・ヘッド」のCDをHMVで買い直しました。
●「オキナワなんでも事典」(池澤夏樹 編 新潮文庫)
もともとはCD-ROMとして発刊され、さらにWEB版となり、紙の逆襲ということで文庫版になったそうである。 ようは事典。最初はうちなんちゅ(=沖縄人のこと)が書いていたそうだが、ガイドブックとしてはやまとんちゅ(本土人)の視点がかかせない、ということで、やまとんちゅで(北海道生まれ!)で沖縄に住んでいて、外国暮らしも長い(ギリシャの映画の翻訳の多くははこの人の仕事)池澤さんに編者の矢が当たったそうです。便利で楽しい。しかもためになる。沖縄の苗字がこんなに複雑なものとは知りませんでした。(2003年8月)
●「ヘル」(筒井 康隆 著 文芸春秋)
やはり筒井、両村上あたりはハーカバーでないと申し訳ない。さて、ヘル、老人小説を通り越して遂に、筒井版「死者の書」。ただしそこはそれ筒井ワールドであって、中沢新一センセの「チベットの死者の書」のような衒学的よそおいは全くなく、常に俗を極めて痛快です。でもスラップスティックお度合いやエロ・グロ・ゲロの度合いも格調高すぎ、さらにはメタ・フィクションでもないし、パワーという点では最盛期におよばず。(2003年11月)
●「Uボート・コマンダー」(ペーター・クレーマー著 ハヤカワ文庫)
飲み会で降下猟兵氏にもらった文庫本。いや驚いた、これが実に面白い。この話はいずれまたどこかで詳述します。(2004年3月)
●「ブルー・ワールド」(星野 之宣著 講談社漫画文庫)
ハードSFと古典歴史ロマンコミックスの第一人者 星野 之宣さんの、肩の凝らないエンタメ・タイムスリップ・恐竜もの漫画。コミックス版も1、2冊もっているんですが、同工異曲の「ブルー・ホール」「「ブルー・シティ」と区別が付かなくなり、さらにイマドキ中身の確かめられる本屋など皆無に等しいため、続刊を買えずにいたところ、文庫がブックオフにあったので即買いました(宗像教授はだぶりが2冊アリ)。この人の画力はものすごいものですが、この話は特にサービス・シーン(女性キャラ総出の水浴)があってお得です。最高傑作はやはり「2001夜物語」ですが、ハリウッドで映画化したら、退屈な「2001年宇宙の旅」を凌駕する作品になると思うんですが…。(2004年3月)
●「記憶がウソをつく!」(養老 孟司×古館 伊知郎 対談 扶桑社 新書版)
養老センセのシリーズ買いです。古館というひとはテレビでは、かなり嫌いな部類の男なんですが(いわく、日本語の意味を浅薄に破壊しているだけなのと、そのくせ言葉の第一人者みたいなふれこみだから)、この対談を読んだら見直しました。ものすごい好奇心の塊と、努力の人なんですね。テレビのしゃべりは、数多いブレインが全部書いて、古館はそれをオウムのように喋るだけ、とか言われてますが、よしんばそうだとしても、前提として、ブレインに、調べるテーマを指示し、結果を吟味するプロデューサーは古館本人でしょう。ゴルゴ13を生産するさいとう・たかおプロみたいなもんか? 養老センセの答えは「情報は不変の死んで固定されたものだが、それを出し入れする人間は毎日変化しつづけている」「川の水は絶えずしてもとに水に非ず、川岸に留まっているあなたこそが、実は動いている」という、ここ最近一連の話。ただし、古館が、言葉を商売にしているという数多い経験に即して、実地的なことを矢継ぎ早に聞くので、かなり楽しめます。学者同士、とくに養老センセより若い学者さんとの対談だと、こうはいかないね。ところで扶桑社ってESSEとか雑誌の出版社でしょ。どうもブームにあわせて、この本を無理矢理新書版サイズで出したようです。巻末に「扶桑社新書 他の作品」などというページが見あたらない(^_^;) (2004年2月)
以下、私のような屁タレが感想文書いてもしゃーないので、ここ1年で読んだ養老本一覧。●「いちばん大事なこと」(養老 孟司 著 集英社新書) 2003年11月
●「まともな人」(養老 孟司 著 中公新書) 2003年10月
●「からだを読む」(養老 孟司 著 ちくま新書) 2003年8月
●「対談 目から脳に抜ける話」(養老 孟司 ×吉田 直也 ちくま文庫) 2003年8月
●「カミとヒトの解剖学」(養老 孟司著 ちくま学芸文庫) 2003年8月
●「養老孟司の<逆さメガネ>」(養老 孟司 著 PHP新書) 2003年9月
●「ガクモンの壁」(養老 孟司 著 日経ビジネス文庫) 2003年8月
●「バカの壁」(養老 孟司 著 新潮新書) 2003年6月
●「異見あり」(養老 孟司著 文春文庫) 2002年6月(※あとがき 古館 伊知郎)
●「対論 脳と生命」(養老 孟司×森岡 正博 ちくま学芸文庫) 2003年2月
●「身体の文学史」(養老孟司著、新潮文庫)2001年